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積雪期稲穂嶺バリエーション単独イグルー泊山行(リベンジモツ鍋編)

いやはや、弥生3月春の訪れを感じる季節になりました。深雪ラッセルの季節も終わり、安心していたら…新たに湿雪ラッセル地獄を味わい、イグルー内で両足が同時につり、七転八倒している…「頑なに、登山道を歩かない登山家」のもじょでございまする。

連続吹雪記録7回の道内記録に並び、トホホ化していた拙者の目に飛び込んで来た…久し振りの土曜日の晴れ予報。

奇しくも、今週末は…それを予め予期していたかのように3連休を採っており、俄かにモチベーションが上がり、仕事中もごくごく中も「何処へ行こうかなぁ♪ルンルン」状態であったのは言うまでもない。

とりあえず、イグルー泊山行は今年の目標の内の一つだったので、イグルーを作り泊まる事は決まったが、行き先がなかなか決まらない。

晩御飯は「牛モツ鍋」に決まって、持ってくビールも「セブンiホールディングス」限定発売の「キリン ブラウマイスター」に決まったのに、行き先だけが決まらない。

イグルー泊ナノで、地形的な制限は少ない。ブロックを切り出す為の10m四方の平坦な場所さえあれば問題無い。

一番に思い付いたのは…お馴染みの「空沼岳」(真簾沼)だった。

アソコなら、風の通り方も積雪量も良く分かっている。

常に人も入っているから、付いているトレースを利用して容易く沼まで上がれるだろう。

次に思い付いたのは、今年1月に吹雪模様の中登って、バーナーのボンベを忘れて、震えながらビールだけ飲んで下山した…余市の「稲穂嶺」だった。

「今度行く時は、ご馳走持って行って、のんびりしよう」とリベンジを誓っていた。

大好きな「空沼」にも暫く行って無いし、「稲穂嶺」も晴れた時に行ってみたい。

前夜、ていね温泉「ほのか」の岩盤浴をしながらも、まだ…行き先は決められていなかった。

当日早朝、札幌は久し振りの10cmを越す積雪にみまわれた。

「うぐぐぐ、春のラッセル知らずの堅雪を予想していたのにぃ」と恨めしく雪雲を見上げながら、候補地の二つの山の泊地を思い浮かべた。

「空沼なら、凡そ…5時間のラッセルが必要だろう。稲穂嶺なら、銀山駅から3時間弱で済む。これは…稲穂嶺かなぁ?」と、後志(しりべし)地方の天気予報を調べると、札幌市内よりは少しだけ良さそうだった。

「よしっ。稲穂嶺にしよう。そうと決まれば、汽車の時間は…」と調べると、いい具合に午前10時半「銀山駅」到着の乗り継ぎが判明した。

余り早いと、日帰り登山客とかち合って、イグルー建設に取り掛れないかも知れない。

昼過ぎに山頂に到着すれば、登山客も居ないだろうし、尚且つ…余裕を持ってイグルー建設が出来る。

結局…出発1時間前になって行き先を決定し、素早くパッキングを済ませ、「琴似駅」からJR小樽行に乗り込んだ(いやはや、相変わらず…行き当たりバッタリな奴だ)。

厳冬期が過ぎ、倶知安行きの車内は外国人スキー客の代わりに、卒業旅行と思しきキャリーバッグをゴロゴロ曳いたJD達(女子大生ね)が居た。

「銀山駅」で降車したのは、拙者一人だけだった。

天候は、所々晴れ間はあるが、雲量が多く白いものもチラチラしている。

駅舎内で装具を身に付け、向かい側のホームに渡る。

ん?トレースが無い。

駅裏の法面には、新しい踏み跡は一つも無かった。

振り返って駅の駐車場を見ると、保線作業員の車両があるだけで、自家用車は一台も無い。

むむむ…これは、もしかしたら、今日は誰も入って無いという事か?

つまり、独り占め…という事だな?

むふふふ…♪と、俄かに怪しくほくそ笑んだが、良く良く考えると…誰かの付けたトレースを利用(ラッセル泥棒)出来無いという事だ。

つまり、フルラッセルの厳しい闘いが待ち受けているという事ではないか?

いやいや、今日はデカザックだから、ラッセル泥棒も厭わない…というか、密かに誰かのトレースを期待していたのにぃ。

つか、湿った新雪が20cmぐらい積もってんのにぃ。

こ、これは…またまた、厳しい勝負になる…という事だ。

湿った新雪は20cm以上積もっていて、脛あたりまで潜って歩きにくい。

更に拙者を悩ませたのは、湿った雪がスノーシューとブーツの踵部分で団子状に固まり、ハイヒール状態になる事だった。

山岳用のスノーシューには、元々「ヒール・リフター」という登坂時の補助的な部品が付いていて、踵をワザと上げるようになっているから、登っている時はさほど気にはならない。

だか、平坦な林道を歩いていても自然と踵が上がってしまうから、これは…かなり歩きにくかった。

なにより、湿った雪が着雪するから重いノダ。

従って、10m進む毎に立ち止まって、スノーシューに付いた雪を落とさなくてはならない。

これが、面倒くさい。

ワサワサと片足を上げてスノーシューを揺すると、大概の雪は落ちてくれるが、面倒くさいからと20mぐらい進んでしまうと、着雪した雪が固まって揺すったぐらいでは落ちてくれない。

にゃろー!!と勢い良く揺すると、片足立ちだからバランスを崩してしまう。

オマケに、こちとら…デカザックを担いでいる。

片足立ちになるだけでも、大変ナノだ。

林道に乗って200mぐらいで林道分岐に辿り着いた。

大して勾配の無い林道ナノに、消耗度がハンパない。

汗がブッシュハットをビショビショに濡らしてしまった。

気温は0℃もある。

中間着のフリースを脱いでも、まだ暑い。

かと言って、アウターを脱ぐと…チラチラ降る雪で濡れてしまう。

この気温のレイヤード(重ね着)には苦労するノダ。

さて、問題は…今日は何処の尾根を使って登るか…だ。

この荷物を背負って、キチガイ斜面を直登するのは不可能だ。

先ず、前回使った尾根は候補から消えた。

目の前の尾根は、比較的緩やかだが、稜線直下に悪場(尻ボるには良い斜面だが)がある。

つー事は、残された尾根は林道を進んで、オーソドックスな一番緩やかなノーマル・ルートに取り付く事だろう。

林道奥に目をやると、緩やかに稜線へ続く尾根が見えた。

地形図を見ても、等高線が詰まった場所も無い。

取り付きまで、林道をあと20分程歩かねばならないが、仕方ない。今日のメインエベントはイグルー泊だ。登坂に余計な力は使いたくない。

ザックを背負いなおすと、林道を進んだ。

残念な事に、新雪のおかげで過去のトレースは完全に消えている。

荒い息を吐きながら、黙々と林道を進む。

狙っていた取り付き地点に着くと、早くも本日二回目の休憩にする。

この辺りは、伐採後に植林されたトドマツの幼木が目立つ。

おかげで立ち木の密度は薄い。

いよいよ登坂を開始したが、これが…なまらキツかった。

今まで、残雪期にデカザックを背負って泊まり山行はした事があったが、脛ラッセルは未体験だった。

先ず、足が持ち上がらないノダ。

ラッセルという事は、脛の深さに沈むという事だ。その深さから足を抜いて、雪面に踏み込むのが大変ナノだ。

更にザック重量が負荷になる。

普段、山を歩く時(大雪山縦走でも)…拙者は常に鼻呼吸なのだが、それでは全然…間に合わない。

はあはあ…ぜぇぜぇ…喘ぐような呼吸になる。

そこに、10m置きのスノーシューの雪団子落とし作業が加わる。

立ち止まったついでに、呼吸を整える。

…ので、全然前進しない。

登坂開始10分で、早くもココロが折れそうになる。

振り返ると、まだ林道が見えるではないかっ。

今日は我慢勝負になりそうだ。

登坂1時間で、なんとか稜線に乗れそうな場所まで高度を上げたが、雪が本格的に降り始めて視界が利かない。

ふと左足に違和感を感じて見ると、スノーシューの踵部分を留めるストラップが切れていた。

ガガーン!

ま、またしても…ストラップ切れかっ。

甲の部分のストラップは新しいものに交換していたが、踵部分のストラップは亀裂も無いので、交換はしなかった。

それが、雪団子落としでスノーシューを揺さぶって負荷を掛けたので切れたのだろう。

またまた、「お助け袋」から細引きを取り出した応急補修をする。

このスノーシューは岳友から譲り受けたものだが、経年劣化でストラップが硬化していて、交換時期が来ているのだろう。

来週の山行までに、全てのストラップを新しいものに交換してしまおう。

稜線に上がると、伐採後の開けた雪原が広がった。

全くヒトの気配もしないし、トレースも無い。完全な独り占め状態に少し嬉しくなった。

うーん、なんとか天候が回復して晴れてくれないかな。

殆ど勾配は無くなったが、既に乳酸が溜まり始めて膝が上がらなくなってきた。

目指す山頂まで距離的には1km程だろうが、あと1時間ぐらいで辿り着けるだろうか。

ダケカンバ(岳樺)の疎林を抜けると、のっぺりとした山頂に到着した。

重いザックを投げ出して、テルモスのコーヒー(ドトールのカフェオレ)を飲んで一服する。

時間は午後2時だった。

前回、3時間弱で到着した事を考えると、デカザック担いで、フルラッセルで3時間半はなかなかのもんだ。

山頂に着いたら、とりあえず昼飯と思っていたが、余り余裕こいてると日没前にイグルーが完成しない。

行動食を頬張って、空腹をごまかして、イグルー制作に取り掛かる。

今回は、泊まり用ナノで居住性を考慮して、直径180cmで建設する事にした。

積雪具合を確かめる為に少し掘ってみると、30cmぐらいの場所にサンクラストしたザラメ状の弱層があったが、ブロック切り出しには問題無さそうだった。

基礎ブロックは一周12個。

三周目までは内側からブロックを積み上げ、アトは外側から積み上げる。

約2時間で屋根が乗った。

時折、晴れ間はあるものの、積丹半島側とニセコ側は雪雲に閉ざされて遠望は無い。

内装工事に1時間。

今回も年越しイグルーと同じように、足を投げ出せる土間を作った。

内装工事を終え外に出ると、ちょうど…夕陽がジューっ音を立てて日本海に沈むトコロだった。

なんとか、日没に間に合った。

反対側の小樽方面から、月齢12の明るい月も昇ってきた。

山泊でないと味わえない贅沢な時間を満喫する。

イグルー内に荷物を広げて、早速…地鎮祭&棟上げ式&完成式の乾杯をする。

今夜は「牛モツ鍋」と「ブリトロ」と「しば漬け」だ。

ピリ辛味噌味の牛モツ鍋には、生牛モツを足して、ニンニク&生姜&鷹の爪を足す。

イグルー内はー6℃。年越しイグルー泊よりは暖かい。

ブラウマイスターを三本空けると、気持ち良くなってきて、エアマットの上でゴロゴロしていたら、突然…足がつった。

それも、両足同時に。

イグルー内で七転八倒して悶絶する。

うぎぎぎ…た、た、助けてぇ〜

翌朝、さほど冷え込みも無く…午前5時に起床。

ぬくぬくのシュラフの中で御来光を待つ。

小樽方面から旭日が昇った。

陽光を真正面から受けると、それだけで体が温まった。弱々しい冬の太陽では無く、力強い春の太陽を実感する。

イグルーが朝日を浴びて赤く染まった。

朝食は、外に出て昨晩の牛モツ鍋の残りにラーメンを入れて食べる。

一本残しておいたブラウマイスターを朝っぱらからいただく。

羊蹄山」から「ニセコ連峰」の山並みが美しい。

やっと恵まれた晴天を満喫する。というか、下りたくないな〜。

もう一泊したいトコロだが、残念ながら…食糧もビールも尽きた。

8時過ぎまでノンビリして撤収に取り掛かった。

イグルーは壊さずに残置しておく。

下山は前回と同じく、林道分岐に合流する尾根にする。

途中、列車時刻調整の為、尻ボで1時間近く遊んで林道に下りると、ボードを担いだ三人組と出会い、取り付く尾根を尋ねられたので、アドバイスした。

念願だった山頂イグルー泊をやってみて分かった事だが、デカザックを背負ってのラッセルは、殊の外…大変で、イグルー建設に支障を来す場合もありそうだ。

更なるイグルー簡略化を検討すべきかも知れない。

単独雪山山行の新しい方法論としてのイグルーだが、まだまだ課題は多そうだ。

おわり。

【写真1】孤独なフルラッセルに苦しむ

【写真2】イグルー・モルゲンロート

【写真3】我が家と記念撮影