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映画「お嬢さん」

 サラ・ウォーターズの『荊の城』を読んだのは今から10年くらい前。本当に面白くて、上下2巻をあっという間に読み終えた。

 大富豪の令嬢との結婚を企むペテン師、その手先としてお屋敷に送り込まれるスリ上がりの少女。一体誰が誰を騙しているのか、二転三転するストーリーに読者は翻弄される。

 この『荊の城』を韓国の映画監督パク・チャヌクが植民地時代の朝鮮に置き換えて翻案し映画化したのだ。楽しみでないはずがない。

 1939年の朝鮮。朝鮮人ながら日本人との姻戚関係を結び、上月と名乗る富豪(チョ・ジヌン)。大邸宅には、美しい姪の秀子(キム・ミニ)が幽閉されていた。

 貧しいスリの娘スッキは、秀子との結婚を企むペテン師、自称「藤原伯爵」(ハ・ジョンウ)の手先となり、お屋敷に侍女「珠子」として送り込まれる。スッキは思いもかけず、孤独で純粋な秀子に同情し、惹かれるようになる。そして、計略通り、上月の留守中に3人は屋敷を抜け出すが・・・。

 ストーリーの面白さは保証付きだが、それ以上に凝りに凝った映画作りに圧倒される。

 和洋の粋を凝らした戦前の建築と庭園など、よくぞこんな場所を見つけ出したと思うようなロケ地の数々。家屋の内装、家具調度の小物、そして豪華な衣装。富豪のコレクションは北斎春画やら飜訳された金瓶梅など春本の類なのだが、その富豪の元に集まる怪しげな紳士達と、そこで繰り広げられる奇妙な朗読会。すべてがはちゃめちゃながら、その狂いっぷりが天晴れでもある。日本統治下の朝鮮で成り上がって日本人に成りすます朝鮮人達という設定から、どの登場人物もかなりの量の日本語のせりふをこなす。日本語の出てくる韓国映画としては、かなりどの俳優も上手にこなしていたと思う。

 そのせりふ回しは別として、ヘンテコな日本髪の女の朗読、深夜にすする韓国式冷麺、お寺の坊さんの目の前で指輪をかわす結婚式など、もうその倒錯ぶりには笑い転げたくもなるが、それもわざと和洋中韓折衷のキッチュな趣味を貫く企みだと思えば納得できる。絢爛豪華に騙される楽しみという点では「鑑定士と顔のない依頼人」にも通じるが、テイストはかなり違う。まあ、ネタバレせずに感想を書くのが困難な映画だが、見おわった後味は悪くない。